★耳の役割は音を聞くだけではありません★
まず、人間の身体がバランスを取る仕組みについてです。
人間の身体はバランスを取るために、視覚(目)からの情報、深部知覚(足の裏)からの情報、そして耳の奥にある内耳からの情報を脳に送っています。
この中でも、内耳には体の「加速度」を感じる機能が備わっており身体のバランスを取るのにとても重要な役割を果たしています。
「耳は音を聞くための器官である」
ということを知らない人はいないと思いますが、音が耳に伝わると内耳ではリンパ液が振動するために人間は音を感じることができます。
それと同じような原理で身体が動いた時にも耳の奥のリンパ液が振動するため、内耳では身体がどう動いているのかを感知することができます。
すなわち
「耳は音を聞くだけでなく、身体のバランスも感知するための器官である」
ということができます。
耳が原因でおきるめまいのことを「末梢性めまい」と呼びますが、めまい全体に占める末梢性めまいの割合は、70−80%程度という報告もあり、めまいがおきたときには耳の異常がないかどうかを調べることは非常に重要です。この耳の異常を調べるためには耳のスペシャリストである耳鼻咽喉科で検査を行う必要があります。
★内耳のちょっとくわしいおはなし★
音を聞く、身体のバランスを感知する、という2つの役割がある内耳は大きく分けて3つの場所があり、それぞれ、
・蝸牛(音を聞く)
・前庭(身体のバランスを感知する)
・半規管(身体のバランスを感知する)
と呼びます。
これら3つの場所の中はすべてリンパ液で満たされており、
1 音が伝わる、もしくは身体が動く
↓
2 リンパ液が振動する
↓
3 有毛細胞が動く
↓
4 神経に信号が伝わる
という流れで脳へ信号が伝わっていきます。
例えば、このリンパ液が増えすぎることによっておきる病気をメニエル病といいます。
メニエル病では蝸牛も前庭も半規管もすべてのリンパ液が増えるため、めまいだけでなく難聴を伴うことが特徴です。
また、4番目の「神経に信号が伝わる」役割を担う神経に炎症がおきて激しいめまいがする病気を前庭神経炎といいます。
蝸牛から音の情報を脳へ伝える神経は蝸牛神経、前庭から身体のバランスの情報を脳へ伝える神経は前庭神経といい、前庭神経炎では蝸牛神経は無事なため、難聴の症状はなく、激しいめまいの症状だけが生じます。
さらに身体のバランスを感知する前庭、半規管という2つの場所について詳しく見ていきます。
前庭にはリンパ液が有毛細胞を動かすために、耳石という石があり、耳石が動くことにより振動が伝わります。
また半規管にはリンパ液が有毛細胞を動かすために、耳石のかわりにクプラというゼラチン状の塊が存在します。
この前庭にある耳石がはがれて半規管に入り込み、場合によっては耳石がクプラに付着してしまう病気のことを良性発作性頭位めまい症といいます。
この病気ははがれた耳石が身体を動かしたときだけ異常な動きをするために、身体や頭を動かすとめまいがする、身体をうごかさないとめまいはしない、という特徴があります。
このように内耳の仕組みを理解するとめまいをおこす病気のメカニズムが明らかになってきます。
★「私メニエル病持ちなんです」には注意が必要なことも・・・★
当院のめまい外来には「私昔からメニエル病持ちなんです」という方が受診されることがあります。
詳しく話を聞いてみると、昔めまいが起こって病院を受診しメニエル病と診断されたものの聴力検査はしたことがないという方も多くいらっしゃいます。
先ほどの内耳のちょっとくわしいおはなしの項で説明したように、メニエル病はリンパ液が増えることによる病気で、別名、内リンパ水腫と呼ばれています。蝸牛、前庭、半規管すべてのリンパ液が増えるため、めまいと難聴が同時に出現します。
めまいの症状としてはぐるぐる回った感じがする回転性のめまいが特徴ですが、めまいだけでなく
・難聴(聞こえにくい)
・耳閉感(耳が詰まった感じがする)
・耳鳴り
など耳の聞こえの症状があるかどうかは必ず確認する必要があり、メニエル病の診断や治療に聴力検査は必須です。
またもう一つ気を付けなければならない点があります。メニエル病はめまいや難聴の発作を繰り返すという特徴があるのですが、聴力低下を繰り返し、適切な治療を受けていない場合、聴力が低下した状態で固定してもとに戻らなくなる可能性があるということです。
それを防ぐためには、聴力低下がある場合には早い段階で治療を開始する、聴力の経過は定期的に聴力検査をしながらしっかり確認する、そして検査の結果を参考に必要な場合には薬による治療をおこなう、ことが大切です。
・メニエル病といわれたことがあるけど、一度も聴力検査を受けたことがない。
・めまいを繰り返しているものの、定期的な診察を受けていない。
という方は耳鼻科の受診をおすすめします。
★「頭を動かすとめまいがします」はリハビリが効果的な耳のめまいかもしれません★
頭や身体を動かすとめまいがするというのはめまいの患者さんに多くみられる症状です。このような症状を訴える患者さんは良性発作性頭位めまい症という病気の可能性があります。
良性発作性頭位めまい症は内耳が原因の末梢性めまいの60%を占めるとも言われている頻度の高い病気です。
内耳の中にある前庭には耳石という石がありますが、その石がもとある部位からはがれて、半規管に入ってしまうことによりめまいを起こします。
半規管に入った耳石の影響で、頭や身体を動かすたびにリンパ液の流れに乱れが生じめまいを感じますが、めまい発作が始まっても、じっとしているとリンパの流れが止まるため、めまいはおさまっていきます。
この良性発作性頭位めまい症の治療で最も大切なことは、耳石がどこに入り込んでいるかを診断することです。
耳石が入りこむ先の半規管には前半規管、後半器官、外側半規管の3つが存在するため(俗に三半規管と呼ばれる理由です)、左右あわせて6つの半規管がることになります。
さらに耳石が半規管内のクプラに付着している場合と付着していない場合があり、ひとくちに良性発作性頭位めまい症といってもさまざまな病態が存在します。
耳鼻科では入りこんでしまった耳石の場所を正確に把握するための検査をおこなっていきます。この耳石の場所を把握することができれば、
・耳石置換法
と呼ばれるリハビリ治療を開始していきます。
耳石置換法にはエプリー法、レンペルト法、ブランダロフ法などさまざまなやり方が存在し、耳石の場所によって適切な方法を選択する必要があります。
また、複数の耳石が複数の半規管に入っている場合や治療中に耳石が別の半規管に移動する場合などさまざまなケースがあり注意を要します。
当院では耳鼻科専門医による診断をもとに院内、ご自宅でのリハビリを積極的に行い、早期の回復をサポートしています。